提供:品川区|撮影:蓮實 拓真|文:森 夏紀(ノオト)|編集:宮脇 淳(ノオト)
JR横須賀線・西大井駅前にある「西大井創業支援センター」が2022年2月1日、リニューアル開業します。新施設の愛称は「PORT2401(ポート ニシオオイ)」で、現在は新たな利用者を募集中。「起業の0.5歩」を掲げる同施設がどんな場に生まれ変わるのか、関係者に取材しました。
西大井創業支援センターが入るJタワー西大井イーストタワー
品川区の創業支援センターは、個人もしくは法人での開業を目指す方や、創業まもない個人・起業グループを支援する施設です。区内には大崎エリアの「品川産業支援交流施設SHIP(シップ)」をはじめ、武蔵小山、西大井、天王洲、広町に拠点があり、それぞれの施設コンセプトのもと運営されています。
西大井創業支援センターの開設は2003(平成15)年。場所はJR西大井駅前のJタワー西大井イーストタワー2階で、これまで品川区が最初に開設した創業支援施設(23区では大田区に次いで2番目)として運営されてきましたが、設備の老朽化や利用者ニーズの変化によって、近年は新規入居者の応募が減少してしまいました。
こういった状況を改善すべく、品川区は同施設の大規模リニューアルに踏み切ります。新施設の延床面積は約82坪。かつてはブースで細かく区切られていた内装を明るく開放的なコワーキングスペース業態に改装し、利用者向けの各種サービス面も新体制に切り替えることになりました。来年2月1日のオープンに向けて、10月以降には起業関連イベントや入居者募集をスタートします。
リニューアル後の同施設は、どんな場所を目指しているのでしょうか。新施設コミュニティマネジャーの野田賀一(よしかず)さんに話を聞きました。
――PORT2401のコンセプトを教えてください。
施設のテーマは、「ここから始まる 起業の航路」です。事業を始める方をサポートするPORT(港)として、起業を目指す方、仕事をしながら次のステップの準備をする方、学生のうちに起業したい方などに向けて「誰もが起業に挑戦できる施設」「起業の0.5歩を踏み出せる場所」を目指します。
――起業の0.5歩というワードは、ずいぶん歩幅が小さい印象です。
そうですね。“起業”という言葉に対して、特出した才能を持つひと握りの人によるリスキーな行為だという印象を持つ人は少なくないでしょう。しかし、新しい事業を起こすことは自分らしく生きるための選択肢のひとつ。いわゆる稼ぐ属性としての「経営者」を目指す方だけではなく、自己実現や社会課題の解決を目標に、「まず何から始めたらいいのだろう」と考え始めた人も応援・支援することができる施設をイメージしています。
そもそも小さな起業は確実に事業化が進むとは限らないため、民間企業が支援の対象とするのはなかなか難しい。だからこそ、自治体の施設によるサポートの意義があるのです。自治体にとって街の活性化は大事なトピックの1つですから、地域から小さな起業家が持続的に生まれていく仕組みをぜひ作っていきたいですね。
――創業支援センターの運営で、野田さんが大事にしたいと考えていることは何ですか?
まずは日々の挨拶ですね。小さなことですが、挨拶やちょっとした雑談からは利用者さんの気持ちや雰囲気が伝わります。自然な会話がない場所では、利用者が自分の悩みを相談するのが難しくなってしまいますから。
私はこれまで、民間企業の社員として店舗開発やレンタルオフィス事業の立ち上げ、ビルのリノベーションといった「ハコ」を作る仕事を中心に取り組んできました。その経験から実感したのは、実際に利用する人たちのコミュニケーションが場の本質を作っていくということです。
外側を整えるだけではなく、施設の企画や運営といった「中身」にももっと深く関わりたいと考え、独立して今回の施設運営に関わることになりました。私自身も自分のやりたい事業に新しく踏み出したうちの一人なんです。
――PORT2401をどんな人に、どのように利用してもらいたいと考えていますか?
「身近な課題を解決したい」「社会に役立つ企業を創りたい」「“好き”を仕事にしたい」と考えている会社員や学生の方は、まずは気軽な気持ちで構いませんので、PORT2401を見学しに来てほしいですね。
漠然とやりたいことのイメージがあっても、同僚や同級生とのコミュニティだけでは起業に向けた具体的な情報を得るのはなかなか難しいと思います。何をしていいかわからない状態のままでは、「起業なんてすごく大変そうだな……」と、実際より高いハードルを感じてしまうこともあるでしょう。しかし、同じような目標を持った人たちが身近に集まれば、リアルな情報にふれる機会が圧倒的に増えますし、それによって新しいアイデアがどんどん浮かんだりすることもあるはずです。
PORT2401では、30代のコアメンバーを中心に、利用者からの相談や悩みに対して、個別・具体的に対応できるインキュベーションマネジャーや運営スタッフが皆さんのエントリーをお待ちしています。私たちは支援者側ではありますが、新施設の運営に挑戦するという意味では利用者の皆さんと同じチャレンジャーの立場です。しっかりと現場でサポートしながら、気軽に話せる良い関係を築いていきたいですね。
リニューアル後の施設イメージ
リニューアル後の同施設は、大きなガラス窓を生かした開放的なつくりが特徴です。クローズドな環境が望ましい会議室以外は、あえてスペース間の壁を取り払い、会員同士やスタッフの顔が見える空間デザインを採用しました。
利用会員の仕事場です。法人登記のほか、郵便受けや荷物を保管する個別のロッカーを設け、創業の準備段階から自社オフィスとして利用できます。
セミナーや説明会、ワークショップなどのイベント会場として予約利用することが可能です。PORT2401の主催企画を実施するほか、未使用時はコワーキングスペースとして活用します。
オープンスペースでは話しづらい打ち合わせや、ホワイトボードを使った少人数でのミーティングなどで利用できる会議スペースはこちらの2部屋。間仕切りを外せば、10人以上が集まる場として活用できます。
受付には運営スタッフやコミュニティマネジャーが常駐し、利用者からの質問やリクエストに対応します。コミュニティスペースは、インキュベーションマネジャーや各種専門家との軽いミーティングなどで利用OK。ランチ休憩では、会員同士のコミュニケーションの場になりそうです。
利用会員が企画・開発する製品やサービス資料を展示します。このスペースを活用して実際に商品やサービスを販売すれば、テストマーケティングや第三者からの意見収集の場になります。
コミュニケーションが生まれる場として、あえて施設の中心に設置したキッチン。コーヒーブレイクなどのリフレッシュタイムや、ランチ時のお弁当の温めなど、自由に利用できます。イベント時のケータリング調理やテストキッチンとしての機能も備えています。
PORT2401では、専門家への無料相談やコミュニティ活動などのサービスを提供します。なかでも注目は、中小企業診断士2人が在籍している点。中小企業の経営課題を診断・助言する国家資格者として、経営計画のアドバイスや、行政・金融機関とのパイプ役を務めてくれます。
0.5歩を踏み出そうとする起業家にどんな支援をしてくれるのか、同施設のインキュベーションマネジャーで中小企業診断士の朝比奈信弘さんに聞きました。
PORT2401 インキュベーションマネジャーの朝比奈信弘さん(右)と米澤智子さん
――朝比奈さんの役割を教えてください。
中小企業診断士として、利用者の事業計画の相談に乗ったり、利用できる支援制度を案内したりします。PORT2401には、私たち2人の中小企業診断士どちらかが専任担当となり、月1回の定期面談で継続的に支援します。
そのほか、イベントの登壇や会員限定オンラインコミュニティでの相談対応なども予定しています。
――中小企業診断士に相談するメリットを教えてください。
「起業に向けて何をしたらいいかわからない」「自分の考えていることに自信がない」など、あらゆる不安や疑問について、解決の道筋を一緒に考えることができます。一人起業または数名で創業するみなさんにとって、何かすぐ相談できるコミュニティはとても大切な場所ですから。
もちろん、すでに仕事関係の人脈があれば、仲間や取引先に相談をもちかけるのも有効でしょう。しかし、起業家にとって利害関係者には言えない悩みはつきものです。その点、私のように利害関係のない立場の人間だからこそ、気軽に相談できることもあるのではないでしょうか。
また、悩みごとがない場合でも、いま考えていることを単純に第三者にアウトプットするだけで、ご自身の考えや戦略がクリアになるという効果もあります。
――インキュベーションマネジャーとして、どんなことを大事にしていますか?
どんなに入念な準備を進めても、いざ起業すると、思いがけない事態や人間関係の悩みは必ず発生します。トラブルに見舞われ、事業が立ち行かなくなったり心身の体調を崩したりと、「パリン」と割れてしまう起業家は少なくありません。まさに割れずにねばって立ち止まれるかの正念場で、起業家一人ですべてを抱え込み過ぎないよう、客観的な立場で適切にサポートすることを心がけています。
また、起業も含めて「自分の人生で何を大事にしたいのか」という問いは、起業前も創業後もそれぞれがずっと持ち続けるものです。特に会社員や学生の立場で起業するなら、ご自身の健康を害さないこと、誰かを裏切らない事業を行うことは特に大切です。こうした観点を大事にして、みなさんを支えていきたいですね。
施設のオープンに先駆け、2021年10月以降に起業をテーマにしたイベントを開催します。起業の基盤設計や今後の計画づくりに取り組んでみましょう。
イベント内容は、「事例紹介」「パネルディスカッション」「ワークショップ」の全3回。1回のみ、2回のみの参加も歓迎です。今の生活を続けながら、まずは一緒に「起業の0.5歩」を踏み出してみませんか?
日時:10月28日(木)19:00~20:30
開催方法:オンライン(Zoom)
「会社や学校を辞め、裸一貫での起業」「大きな金銭的リスクを背負っての起業」は心理的・金銭的ハードルが高く、その一歩を踏み出すには大きな覚悟が必要です。そうした覚悟が一つの成功要因であることは確かですが、家庭や職場、学校など「生活の拠り所」を持ちながら、自分のビジネスを少しずつ始めてみませんか。実際に起業した3社の事例をもとに、PORT2401運営スタッフがリスクを最小限に抑えた起業の方法を紹介します。
日時:11月4日(木)19:00~21:00
開催方法:オンライン(Zoom)
ゲスト:株式会社spark、株式会社リバ邸
起業家の多くはビジョンを掲げ事業計画を立てますが、社会や業界の想定外の変化に伴い、計画通りにはいかないことも。実際に起業した先輩経営者は、日々どのように判断し、事業を継続・展開しているのでしょうか。ベンチャー企業2社をゲストに、創業後のリアルなお話を伺います。
日時:11月13日(土)15:00~17:30(17:30~交流会、19:30撤収予定)
会場:品川産業支援交流施設 SHIP
定員:25名
ゲスト:SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)インキュベーションマネジャー 上田将史さん
「実際に自分が起業するなら?」を未来の起業仲間と一緒にイメージしてみましょう。自身の起業について具体的に考えるグループワークの後、SFCのインキュベーションマネジャー上田将史さんによる基調講演を行います。
※イベントの内容は、都合により一部変更となる場合がございます。予めご了承ください。
PORT2401では、2021年2月オープンに向けて利用会員を募集します。
(1)利用希望者は下記からエントリーします。
エントリー期間:2021年10月8日(金)~2021年12月6日(月)
(2)エントリーした方全員にメールで必要書類をお送りします。各書類に記入し、同メールに記載されている郵送先にお送りください。
書類提出期間
2021年10月11日(月)~2021年12月13日(月)
(3)書類選考のうえ、メールにて利用可否をお伝えします。順次、利用開始手続きをしていただき、2022年2月1日から施設を利用できます。
西大井創業支援センター PORT2401に興味のある方は、まずイベントに参加してみましょう。オープンに向けた今後の動向も見逃せません。やりたいこと実際に形にしたいと思っている方は、PORT2401ではじめの0.5歩を踏み出してみませんか?
施設概要
住所:
東京都品川区西大井1-1-2 Jタワー西大井イーストタワー 2階
アクセス:
[電車]
JR横須賀線 西大井駅 徒歩1分
JR東海道本線・東急大井町線・りんかい線 大井町駅 徒歩15分
都営浅草線 中延駅 徒歩15分
[バス]
東急バス 大井町駅西口から
「西大井駅」行で終点 徒歩1分
「荏原営業所」行で「西大井駅入口」 徒歩1分