提供:品川区 制作:品川経済新聞編集部
お腹がいっぱいになったから残す、賞味期限を過ぎていたから捨ててしまう……。普段の生活で、このような経験をした覚えがある人は少なくないのではないでしょうか。
2019年に農林水産省が発表した資料によると、2016年度の日本の食品ロス量は約643万トン。私たちの生活のなかで、膨大な量の食品が廃棄されているのです。これを受けて2019年5月には、食べ物が無駄に捨てられてしまうのを防ぐための「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称:食品ロス削減推進法)が公布され、10月1日から施行されました。
品川区では、「もったいない」の精神を普及するため「SHINAGAWA“もったいない”プロジェクト」を立ち上げ、食品ロスの削減と普及啓発の活動を行なっています。
主な取り組みのひとつは、家庭で余っている食品などを持ち寄ってもらい、それらをまとめて福祉団体や施設、フードバンクなどに寄付するフードドライブ活動。賞味期限切れによる「食品ロス」の削減だけではなく、食品のストックや期限をチェックする習慣を作り、食品の買い過ぎの防止意識を高めることを目的としています。
また、区内の保育園や幼稚園に「食品ロス」をテーマにした紙芝居を配布し、各園で読み聞かせを実施。子どもの頃から食品を大切にする習慣を付け、残さず食べる意識を育んでもらう取り組みです。
「食品ロス」をテーマにした紙芝居の一部
今回、詳しくご紹介するのが、街中の飲食店と連携して進めている「SHINAGAWA”もったいない”推進店」。品川区内で食品ロス削減に取り組んでいる飲食店を「推進店」に認定し、区のホームページや冊子で店舗の食品ロス削減に向けた取組みを広くPRする事業です。
現在では区内の21商店街139店舗の飲食店・小売店が認定されており、それぞれの店舗が特色ある取り組みを行っています。
このステッカーが「SHINAGAWA”もったいない”推進店」の目印
大井町にある「アンズキッチン」、旗の台の「アウンキッチン」、商店街全体で活動している旗ヶ岡商店街の取り組みの様子をのぞいてみましょう。
サングリアのフルーツをソースに再利用 大井町「アンズキッチン」
大井町駅から徒歩6分ほど、青いドアが目印のビストロバル「an’s kichen(アンズキッチン)」は、お肉料理とワインが楽しめるお店。2013年のオープン当初から食品ロス削減に取り組んでいます。
「仕入れた食材は余すところなく使い、端材はスープにするなどすべておいしく食べてもらえるように工夫をしています」と店主の井上直美さん。
お店の看板メニューは、千葉で飼育された古白鶏を使用した「総州古白鶏のソテー」(1,250円)。甘みと旨みの両方を持ち、ぷりぷり弾力のある歯ごたえが楽しめます。
こちらの料理のソースは、自家製サングリアのフルーツを再利用しています。通常だと捨ててしまうフルーツ。ですが、ソースやつけだれにすることで奥行きのある風味が味わえるそうです。
「陶板焼きナポリタン」(850円)も人気メニューのひとつ。熱した陶板に乗せて提供するので、ずっと温かい状態で楽しめます。焦げてカリカリになったパスタの食感がアクセントに。週3で食べに来るほどの熱狂的なリピーターもいるそうですよ。
メニューには少量ずつ味わえるタパスを用意しているので、お客さまにいろんな料理を楽しんでもらいながら食べ残し防止にもつながっています。
「料理の少量対応もしているので、気軽にお声掛けください」と井上さん。「お客さまの要望に応えつつ、みんなが気軽に集まれるお店にしていきたいです」と話していただきました。
やさしい色使いが印象的な店内はどこか家庭的な柔らかい雰囲気が漂います。お昼時には近隣のビジネスパーソンでにぎわい、夜はゆったりワインを飲みながらくつろげる憩いの場に。近くを訪れたときは立ち寄ってみては。
自家栽培の新鮮な野菜をお届け 旗の台「アウンキッチン」
旗の台駅から徒歩5分ほど、中原街道から一本入った通りにお店を構えるバル「a.un kitchen(アウンキッチン)」。「おいしく健康に」をコンセプトに、野菜をたっぷり使った料理を提供しています。
看板メニューは、数量限定の「30品目の食材が入った日替わりアウンランチ」(1,000円)。魚かお肉が選べるこちらのメニューは、多品目の食材が味わえて栄養たっぷりです。ランチの内容は日替わりで、その日仕入れた旬の食材が楽しめます。
カブの葉やニンジンの葉など、普段捨てられてしまう部分も無駄なく活用し、極力廃棄する部分をなくしています。大葉やプチトマトなど添え物として残りがちな野菜も、素揚げやマリネして工夫することで残さず食べてもらえるように配慮しているそうです。
使用する野菜のほとんどは、店主・深山航さんの祖母の畑から直送したもの。新鮮な野菜を必要な分だけ仕入れることができるので、余らせて捨ててしまうこともありません。
お店は深山さんと母親の親子で営業しています。気さくな接客も魅力のひとつ。
「ご飯の量が調節できるので、お客さんからは好評の声をいただいています。食べ切れない分はお持ち帰り用の容器を用意しているので、気軽にお声がけいただければ」と深山さん。
「お客さんがいつもわくわくしてくれるようなお店づくりを心がけていきたいですね。今後も食品ロス削減の取り組みを続け、より多くの人に認知してもらえればうれしいです」と笑顔を見せてくれました。
a.un kichen(アウンキッチン)
「食・おもてなし・もったいない」がコンセプト 旗ヶ岡商店街
1927年に開業した池上電気鉄道旗ヶ岡駅沿いの商店街として栄えた旗ヶ岡商店街。1951年に鉄道会社の合併で東洗足駅(大井町線)と旗ヶ岡駅(池上線)が統合され、駅の面影はなくなってしまいましたが、町並みからは昔ながらの懐かしい雰囲気を感じることができます。
こちらの「子育て地蔵尊」は当時の旗ヶ岡駅前に鎮座していたもの。地域住民の手で保全活動が行われ、今なお地域の安全を守り続けてくれています。
旗ヶ岡商店街は「食・おもてなし・もったいない」を理念に掲げ、魅力ある街づくりに取り組んでいます。商店街には「SHINAGAWA”もったいない”推進店」が多数あり、それぞれが食品ロス削減に向けた取り組みを展開しています。
今回お話を伺ったのは、旗ヶ岡商店街の中にある写真館「FLAg(フラッグ)」店主であり、旗ヶ岡商店会会長の野口宗孝さん。野口さんは2代目の会長として、商店街の管理やイベントの企画運営などに携わっています。
商店街で開催されるイベントでは、商店街の一部店舗が屋台で出店するほか、音楽ライブなどの催しも。合わせて、もったいない推進店のラリーや食品ロス削減を啓蒙するブースも設置しています。
「商店街は個人店舗が多く、お客さんとのコミュニケーションが密接に取れるのが特徴です。個人店で融通も効きやすいため、ご飯の量を調節するなど積極的な食品ロス削減につながっているのではないでしょうか」と野口さん。
「未来のためには食品ロス削減だけでなく、ゴミ削減など包括的な取り組みが重要になってきます。これからも根気強く活動を続けていき、多くの人に関心を持ってもらえるとうれしいですね」と今後の取り組みについて語っていただきました。
もったいないプロジェクトを担当する品川区環境課の濱本圭さんは「食品ロスを減らすために大切なことは、食品を「買いすぎない」「作りすぎない」「食べきる」の3つです。例えば、買い物前に冷蔵庫を確認し必要なものを必要な分だけ購入する、料理は食べきれる分だけ作り、食べきれなかった場合は他の料理に作り変えるなど、ご家庭でもできることから取り組んでみてください」と話してくれました。
「品川区では今後も食品ロス削減に向けた施策を展開し、多くの人が自然に行動してもらえるよう呼びかけていきたいと考えています』とも。
10月は食品ロス削減月間でもあります。これからの未来に向けて、普段の生活をちょっとだけ見直してみてはいかがでしょうか。