提供:品川区 地域振興部 商業・ものづくり課|取材・文:石井彩乃|編集:有限会社ノオト
外出先や自宅で、分からないことを誰にも聞けず困った経験はありませんか? 「商品の場所を知りたいけど、店員さんは忙しそうで声を掛けづらい」「すぐに相談したいのに、夜中だから誰にも連絡できない」……。こんなとき、いつでも話を聞いてくれて、かつ解決法に導いてくれる存在があったらどうでしょう。
「AIコミュニケーションシリーズ」は、人の代わりとなってコミュニケーションできるロボット。非対面で案内や接客ができることから、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止にも貢献しているそうです。どんな場で活躍しているのか、開発元であるタケロボ株式会社社長の竹内清明さんにお話を伺いました。
実際に、「AIコミュニケーションシリーズ」が活躍している場を見てみましょう。品川区役所では2020年10月から、同シリーズのロボット型製品「ロボコット」が庁舎の案内役を担っています。
写真提供=品川区
試しに、「ロボコット」に質問してみましょう。付属のマイクに向かって「住民票の写しがほしいです」と伝えると、該当窓口を音声で案内してくれました。お腹の画面では、フロアマップを表示します。
住民票の取得や住所変更手続きといったベーシックな案内はもちろん、「みどりと花のボランティア活動に申し込みたい」、「品川区のキャラクターについて知りたい」といった幅広い問いかけにも対応します。日本語・英語・中国語・韓国語での受け答えが可能です。
導入後、利用者からは「見た目がかわいい」、「周囲の雰囲気が明るくなった」という声があがっているそうです。職員との対面や接触機会を減らし、案内窓口の混雑緩和にも繋がるため、新型コロナウィルス感染症対策にもなっています。
写真提供=タケロボ
「AIコミュニケーションシリーズ」のラインナップは3種類。猫やウサギの見た目をしたロボットタイプの「ロボコット」、スタンドタイプの「コミニスタ」、パソコンやタブレット、スマートフォン、サイネージなど様々なデバイスに接続できる「マルコシス」があります。これらの大きな特徴4つを見ていきましょう。
同シリーズの応答の幅広さを可能にするのが「タケロボクラウド」です。クラウドについて、竹内さんは「インターネット上に膨大な情報が保管できる『箱』をイメージすると分かりやすいでしょう」と話します。
利用者がAIコミュニケーションズの製品に質問すると、インターネット上にある「箱」=クラウドから、状況に応じて必要な機能やデータが呼び出されます。
例えば、「タケロボクラウド」には、区役所で想定される約1万個の質問や要望とその答えを用意しています。実際の導入に当たっては、そのデータ群から各役所に適したQ&Aをピックアップ。導入後は、機械学習で日々新しい情報を取り入れていきます。
「AIコミュニケーションシリーズ」のコミュニケーション方法は、音声と画面操作の2通りです。そのため、音声認識、音声ガイド、画面表示、タッチパネル操作の機能を備えます。
「音声認識の精度がとても高いため、マスクのまま話しかけても正しく聞き取ります。画面に一度も触れずにやり取りが完結できるフル音声機能や、タッチパネルを使った筆談サービスも用意しています」と竹内さん。
利用する場の特色に合わせて、日本語だけでなく世界中の約60言語に対応します。AIやシステムへの登録は日本語で行い、製品側で自動的に多言語化を実行。外国語が苦手な方でも、簡単に多言語に対応させることができます。
インターネットに接続できる画面付きのデバイス(端末)なら、ノートPC、タブレット、スマートフォンなど、大きさや形を問わず導入できるのも、同シリーズの特徴です。「ロボコット」の場合は、ぬいぐるみ部分を地域や企業のマスコットキャラクターにカスタマイズすることもできます。
また、初期データのパッケージは、ショッピングモールやホテル、飲食店、薬局など、幅広い施設のQ&Aを蓄積しています。このように、見た目も中身も柔軟にカスタマイズ可能です。
写真提供=タケロボ
高い汎用性を持つ「AIコミュニケーションシリーズ」は、どのような理由で生まれたのでしょうか。開発の経緯について、竹内さんはこう説明します。
「地方では人手が足りず、受付担当者を雇えない状況もあるでしょう。人の代わりに案内業務ができるAIロボットを開発すれば、人材不足に貢献できると考えました。日常には、わざわざ人がやる必要のないコミュニケーションが溢れています。それをAIロボットが代わることで、さまざまな制約を解消したいと考えました」
コンピューター会社に勤めていた竹内さんは、約20年前に「次の時代はAIやロボットが中心になっていく」と確信。独立・起業し、製品開発に取り組んできたそうです。
写真提供=タケロボ
「AIコミュニケーションシリーズ」は、区役所以外でも様々な場所に導入されています。株式会社ココカラファインでは、社内用のQ&Aとして「マルコシス」を採用しました。「昇進後の給料はいくらになるのか」「課長になるには、どんなキャリアプランを立てるべきか」など、面と向かって人には聞きづらい質問にも答えてくれます。
「目標に向かってどんな働き方をすればいいのかが可視化できると、本人のモチベーションがアップします。生産性が向上すれば、やがて会社の利益にも繋がりますよね」と竹内さん。
このほか、人々の生活により密着した場でも「AIコミュニケーションシリーズ」による手助けが始まりました。京都大学学術情報メディアセンター小山田研究室が取り組む子育てプロジェクトでは、「ロボコット」を活用した子育て支援に取り組んでいます。産後うつや、赤ちゃんの夜泣きなど、子育てに関する悩みを時間や場所を気にせず気軽に相談できる「ロボコット」は、子育てに奮闘する親の強い味方になりつつあるようです。
写真提供=タケロボ
今後について、竹内さんは「初期データのパッケージを充実させ、スムーズな導入環境を整えたいと考えています。世界中どこでも使える製品を目指して利便性を高め、将来は各々が好きなロボットに『タケロボクラウド』を繋げてもらえたら」と笑顔を見せてくれました。
「AIコミュニケーションシリーズ」を通じて、人材不足や新型コロナウイルス感染拡大防止などに貢献してきたタケロボ。ロボットに業務の一部を任せることで、もっと人がやりたいことに時間を使える社会が実現するのではないでしょうか。進化し続ける「AIコミュニケーションシリーズ」に、今後も期待が高まります。
品川区社会貢献認定製品事業とは 品川区は、2018(平成30)年度から中小企業の優れた自社技術・製品・サービスで社会貢献に寄与し、指定のテーマに該当するものを「社会貢献認定製品」として認定しています。認定製品は、品川区への試作・導入などの積極的な販路拡大支援を受けることができます。
2020年度は「新型コロナウイルス感染症対策」をテーマに2社2製品が認定されています。