提供:品川区 地域振興部 商業・ものづくり課|取材・文:年永亜美|編集:有限会社ノオト
これまで対面や書類で進めてきた手続きや申し込みを、ウェブサイト上で済ませるケースがどんどん増えてきました。各企業で、カスタマーサービスのあり方が問われています。
しかし、ウェブサイト上でサービスを提供している皆さんは、顧客から「この画面で何を操作すればいいの?」「正しく内容を入力したはずなのに、なぜかエラー表示が出る!」などの問い合わせが相次ぎ、困った経験はありませんか?
そんな時に頼りになるのが、顧客のウェブサイト上での画面操作を事業者側が支援するサービス「Withdesk Browse(ウィズデスク ブラウズ)」です。一体どのようなサポートができるのでしょうか? コロナ禍でのさらなる活用方法とは? グラフテクノロジー株式会社代表の田口湧都さんに、製品の特徴と活用事例について伺いました。
まずは、「Withdesk Browse」がどんな場面で使われているのか見ていきましょう。品川区は2020年12月、「品川区家賃支援給付金」の申請用ポータルサイトで「Withdesk Browse」を自治体で初めて試験導入しました。
「家賃支援給付金」とは、新型コロナウイルス感染症の影響で売上が低下し、入居するオフィスや店舗の賃料支払いが難しくなった事業者の地代や家賃などを給付金として支給する制度です。東京都家賃支援給付金の上乗せとして、品川区が独自で開始しました。区内に本社または事業所のある中小企業や個人事業主が対象で、現在数千件もの申請が来ています。
申請の受付サイトでは、業種や資本金額、従業員数、東京都家賃等支援給付金の給付決定額など十数項目を入力し、各種証明書をアップロードします。
操作方法が分からない場合は、区の担当者に電話で問い合わせます。しかし、電話口で「この画面のこの項目が分からなくて……」と説明しても、担当者になかなか伝わらず、お互いにやきもきしてしまうかもしれません。そういった状況を解決してくれるのが、「Withdesk Browse」です。
区では、予めサイト上に「Withdesk Browse」を開始するためのボタンを設置しています。利用者は電話口で担当者の指示に従い、画面右下のボタンを押します。
電話口で担当者が伝える6桁の番号を入力します。
すると、画面上に表示されている利用者のカーソルとは別に、担当者のカーソルが表示されます。担当者は自分のパソコンで利用者の画面を見ながら、どこで行き詰まっているのかを確認し、正しい操作方法を指示できるのです。
目の前のモニターで視覚的に操作を共有できるため、やり取りに長い時間はかかりません。実際に、「Withdesk Browse」を活用したことで、申請サイト利用者からの問い合わせ対応時間は、およそ64%も削減できたそうです。
コロナ禍を乗り切るための支援策だからこそ、その申請や受理は速やかに進めたいところ。対面を避け、煩雑なコミュニケーションを省けるため、利用者の安心につながります。
グラフテクノロジー株式会社代表の田口湧都さん
ユーザーが閲覧するウェブページをリアルタイムで共有し、カスタマーサポートの担当者が遠隔操作できる“コブラウズ(Co-browse)”のサービス「Withdesk Browse」。事業者にとって、この便利なサービスの特徴は、次の3点です。
「重いデータのやり取りが発生しないので、タイムラグは少ないですね。画質劣化も起こりません」と田口さん。画面が固まり、待機時間が生まれてしまう心配がないのは、サポートをする側・される側どちらにもうれしいポイントです。
サポートされる側は、事前にソフトウェアをインストールしなくてOK。画面上のボタンを押せば、すぐに「Withdesk Browse」を利用できます。「操作が分からないから問い合わせたのに、まずはソフトウェアをインストールしなくちゃ……」と、本末転倒な事態になることがありません。
通信には暗号化されたSSL通信を採用します。そもそも、クレジットカード番号など機密性の高い情報は、窓口担当者に見られることを不安に思う人は少なくありません。そんなときは、個人情報が共有画面に表示されない「マスキング機能」を事業者側が事前に設定しましょう。
「Withdesk Browse」を導入する際に、マスキングする項目を設定します。通信前に入力値を記号に変換することで、マスキング部分の情報は担当者に共有されません。
品川区以外の民間企業も、続々と「Withdesk Browse」を採用しています。特に、保険などを扱う金融系企業や百貨店など、ウェブサイト上での申し込みや手続きをする企業は利用が増えているようです。
導入にあたっては、対象ページのHTML内に専用のJavaScriptタグを埋め込むだけ。マスキングが必要な項目の洗い出しや設定などに必要な期間を考慮しても、早ければ導入を決めてから1週間程度で実装できます。
「金融系の手続き画面では、入力項目が多く、内容が複雑な場合は少なくありません。1回の手続きに何回もつまずくポイントがあると、利用者も嫌になってしまいますよね。そこをカスタマーサポートの担当者が、『Withdesk Browse』を活用することで、きめ細かくフォローできるのです」と田口さん。
受け付けや申し込み以外では、営業活動の補助ツールになるケースも。百貨店などの通販サイトに導入すれば、商品選択から購入までユーザーを手厚くサポートすることができます。「サイトに買い物や申し込みに来たユーザーの離脱率を抑えるのにも、一定の効果が見込めるのではないでしょうか」と田口さん。
さらに、コロナ禍の到来で、田口さんの想定していなかった用途で活用する企業も現れました。
「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、対面での契約が難しくなり、営業プロセスを見直す企業が増えています。『Withdesk Browse』を導入した契約画面と電話を併用し、遠隔でも契約を進められる営業ツールとして活用したいという声も頂きました」(田口さん)
地方の電力・ガス会社など、インフラ企業のサポート業務にも大きな変化がありました。これまで、遠方に住む既存会員のフォローが難しかったのですが、コロナ禍で対面を避ける動きが広まり、サポート体制の見直しを迫られたのです。プラン変更や引っ越しなど、会員情報の変更時に「Withdesk Browse」を活用しています。
このように、非対面でのコミュニケーションをスムーズに実現できる「Withdesk Browse」が、企業とユーザー双方の「煩わしさ」をスマートに解決しています。
今後の課題について田口さんは、「一歩進んだ視点で、新たなサービスを検討している」と話します。
「『Withdesk Browse』は問い合わせ対応を効率化するサービスですが、一方で、問い合わせ対応そのものを減らしたいという強い要望もあります。現在、こうしたニーズに対し、ユーザーが自発的に手続きを一人で完了できるような、新たなソリューションを考えています。企業の本質的な課題解決をサポートしたいですね」
コロナ禍により非対面サービスの需要が高まり、インターネットに不慣れな層が新しいウェブサービスを利用する機会はますます増えるでしょう。ユーザーの利便性を手厚くバックアップする製品の展開に、これからも目が離せません。
品川区社会貢献認定製品事業とは 品川区は、2018(平成30)年度から区内中小企業の優れた自社技術・製品・サービスで社会に寄与し、指定のテーマに該当するものを「社会貢献製品」として採択しています。採択された製品は、品川区への試作・導入などの積極的な販路拡大支援を受けることができます。
2020年度は「新型コロナウイルス対策」をテーマに2社2製品が認定されています。