制作:品川経済新聞編集部
初めて会う人、これまであまり話したことがない人とのやり取りで、困った経験はありませんか?「話題が見つからない」「何に悩んでいるのか分からない」。そんなコミュニケーションにおけるハードルを、製品やサービスで乗り越えようと取り組む企業があります。
気軽に肌に塗れる画材「ミラクルペイント」を使ったイベント提案を行うPOOLと、遠隔手話通訳サービス「モバイルサイン」を提供するシュアール。2社がつくり出す「コミュニケーション」とは、どのようなものなのでしょうか? お話を聞いてきました。
イベントやスポーツ観戦などで、顔にペイントをしたことはありますか? 見かけたことはあっても「自分の顔に施すのはハードルを感じる」という方もいるかもしれません。
そんなフェイスペイントを、誰でも、どんな場所でも、気軽に楽しめるのが、POOLが企画・販売する「ミラクルペイント」。「天然ゴムラテックス」という素材で作られていて、肌にも安心な商品です。
絵の具のような見た目ですが、肌に塗ると、2~3分で乾いてゴムの膜に変化します。もし体質が合わなかった場合でも、すぐに剥がせる「即時除去性」が特徴です。肌や道具を洗うために水を用意する必要がなく、汚水の管理といった衛生面や環境面の問題をクリアにしています。
本当にそんなに簡単に剥がせるのかが気になったので、記者も実際に試してみました。まずは、好きな色の「ミラクルペイント」をパレットに乗せて、指で広げたり、道具を使ってスタンプしたりと、自由に描きます。
そして、想像以上にとても簡単に剥がれました。「なんだか気に入らないな」というときにも、ペロンと剥がしてもう1回! 「上手に描かなきゃ」というプレッシャーを感じないので、落書き感覚で楽しめます。
POOLでは、「ミラクルペイント」の安全性と気軽さを生かしたイベントを行っています。
指を使って楽しむレクリエーション「ゆびレク」は、児童施設や介護現場向けのイベントです。何を描くかを話し合うことで、参加者同士のコミュニケーションを促進します。ペイント作業は指先の感覚を使う練習にも。描き上げた顔を見合って笑ったり褒めたりすることは、お互いへの自然な肯定感を生み出すそう。性別や年齢を問わずに遊べるのも、「ミラクルペイント」の魅力のひとつです。
代表取締役の中村友哉さん
以前は、WEBのコンサルティングやプロデュース事業が中心だったPOOL。「ミラクルペイント」の前身となる製品に出会ったことをきっかけに、2012年ごろからフェイスペイント市場の研究を始め、2014年に正式事業化しました。代表取締役の中村友哉さんは、当時について「流通するフェイスペイントの素材、それを使ったイベント運営の両方で、安全面の整備が不十分であると感じた」と振り返ります。
そこで中村さんは「ミラクルペイント」を皮膚科の医師と共同開発。さらに、「製品の販売だけでなく、誰でも安全に行えるイベントの運営方法を広めなければ」と、フェイス&ボディペイントのトータルプロデュース事業を進めました。
また、安全な運用のもと自由な発想でイベントを企画できる人を増やそうと、フェイスペイントの講習会を定期的に開催。美容師法の理解やイベント運営のリスクマネジメント、参加者との効果的なコミュニケーションについても教えています。
講習会の様子
一般社団法人日本フェイスペイント・イベント協会を設立し、理事長を務める中村さん。今後は人材育成の一環として「各分野のプロフェッショナルとつながりたい」と話します。
「僕が今から介護のプロになるには時間がかかるけれど、介護のプロにフェイスペイントのやり方を伝えて、現場で効果的に実践してもらうことはできる」と中村さん。実際、最近の講習会では参加者の半数がケアマネジャーの方です。
「介護業界だけでなく、今後もフェイスペイントの可能性を広く発信することが私の役割。各業界とコラボレーションして、面白い取り組みが増えたらうれしいですね」と意気込みます。
ある人にとっては「ちょっとした」コミュニケーションでも、他の人にとってはハードルが高く悩みのタネになっている、ということもあります。シュアールが提供する「モバイルサイン」は、テレビ電話を使い遠隔で手話通訳を提供することで、聴覚障がい者との会話をスムーズにするサービスです。
駅や病院の窓口、企業のお客様相談室など、聴覚障がい者がコミュニケーションに不便を感じる場面で、ネット回線を利用して遠隔地から「通訳オペレーター」が手話通訳を提供します。通訳の方法は、大きく2種類のタイプを用意しています。
駅の窓口など、担当者と聴覚障がい者が対面している場合。第三者である通訳オペレーターは、タブレット端末などを介して聴覚障がい者と手話で会話し、内容をその場にいる担当者に伝えます。
企業のお客様窓口など、担当者と聴覚障がい者が遠隔で連絡を取っている場合。第三者である通訳オペレーターは、タブレット端末などを介して聴覚障がい者と手話で会話し、その内容を電話で担当者に伝えます。
品川区では、2018年12月から「モバイルサイン」を試験導入し、2019年4月から本稼働する予定です。総合窓口にタブレットを配置し、必要に応じて各課に持ち歩けるようにして運用しています。手話通訳士が常駐しない日でも、聴覚障がい者が区役所にぐっと足を運びやすくなりました。
そのほか、区内の企業である日本航空株式会社のWEBサイトでは、航空券の予約やツアーパックの問い合わせ時に「モバイルサイン」が利用できます。
代表取締役の大木洵人さん
「手話が母語の人にとって、日本語の言語体系を覚えるのは第二外国語を習得するのと同じくらい大変なんです」と話すのは、同社代表取締役で手話通訳士の資格を持つ大木洵人さん。大木さん自身に聴かく障がいはありませんが、学生時代に立ち上げた手話サークルでの活動がきっかけで、「119番がかけられず病院に行けない」など、聴こえないが故に生じる聴覚障がい者の困難に気がつきました。
当時は、スマートフォンの普及により、液晶端末を持ち歩く感覚が世間に浸透し始めた頃。「テクノロジーの進化で、困難を解消できるかもしれない」とビジネスの可能性を感じた大木さんは、大学在学中の2009年に同社を創業。「Tech for the Deaf(技術を聴覚障がい者のために)」をスローガンに、聴覚障がい者の社会インフラを整備する事業を進めています。
モバイルサインの普及率アップを目指し、「いつでも使えるほど身近にある状態」を目指す大木さん。そのためには、通訳オペレーターの育成も重要です。
「現地派遣型の手話通訳士が安定収入を得るのは難しいのが現状。『遠隔対応型の通訳オペレーター』という新たな雇用の確保が、手話通訳士という職業自体の環境改善にもつながれば」と期待を寄せています。
「ミラクルペイント」によってコミュニケーションを楽しむ場を生み出すPOOLと、「モバイルサイン」で日常のコミュニケーションをスムーズにするシュアール。どちらも長期的な視野で製品の普及に取り組み、作り手を育てることにも力を入れています。新しいコミュニケーションを作り出す製品との出会いは、自分と周囲の関係がより良く変化するきっかけになるかもしれませんね。
●品川区社会貢献認定製品事業とは
品川区社会貢献製品とは、品川区が区内中小企業の優れた自社技術・製品・サービスで社会に寄与するものを認定するもので、2018年(平成30年)度から実施しています。認定製品は、品川区等で積極的に試験導入されるなど区による販路拡大支援を受けられます。
2018年度は12社13製品が認定されました。
■品川区社会貢献認定製品事業 PR記事