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北品川に古酒・熟成酒専門店「いにしえ酒店」 方南町から移転、築90年の古民家に

店主の薬師(やくし)大幸さん

店主の薬師(やくし)大幸さん

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 古酒・熟成酒の専門店「いにしえ酒店」(品川区北品川1)が5月5日、北品川駅近くの古民家群リノベーション施設「SHINAGAWA1930」B棟にオープンした。

1974年製からそろえる古酒「玉響(たまゆら)」

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 「SHINAGAWA1930」は築90年の古民家5棟建てをリノベーションした複合施設。同建築物は、かつて「しながわ100景」に選出されている。総延床面積は約457平方メートル。

 同プロジェクトの企画・立案は、京浜急行電鉄(神奈川県)のグループ会社Rバンク(渋谷区)。コワーキングスペースやカフェ事業を展開するユニアス(東五反田2)とともに運営事務局を設立し、クラウドファンディングなどを活用しながら建物の再生工事に着手した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で計画に遅れが出たものの、今年1月にはソーシャルカフェ「PORTO」がオープンし、5月にはコワーキングスペース「Kamachi」も本格始動する。

 「いにしえ酒店」は2016(平成28)年に杉並区・方南町で開店。移転先を探したものの見つからず、2020年7月に一時閉店した。約1年かけて物件を探した末、「古酒が似合い、ほぼ理想そのもの」といえるSHINAGAWA1930を見つけたという。店舗面積は1階・2階合わせて59平方メートル。

 移転前に行っていた角打ちや食べ物の持ち込みを廃止し、新コンセプトに「酒は売らない」を掲げる。店主の薬師(やくし)大幸さんは「本当に酒を販売しないのではなく、古酒・熟成酒の価値を体験できるサービスをメインに打ち出したい。酒店というよりテーマパークのような『いにしえワンダーランド』を構想している」と話す。

 日本酒を寝かせる「古酒」や「熟成酒」に明確な定義はなく、薬師さんは「古酒は原材料こそ日本酒だが別の味わいになったもの、熟成酒は味や風味が日本酒の延長線上にあるものと考えている」と話す。製造背景には、酒蔵が目的を持って寝かせたもの、実験的に寝かせてみたもの、余剰在庫などで結果的に寝かせることになったもの、の3パターンがあるという。

 同店1階には、100種以上の商品をそろえる。藤井酒造(広島県)の純米吟醸酒「龍勢 生もと八反陸拾 火」(1,782円)や特別純米酒「龍勢 和みの辛口」(1,375円)、木戸泉酒造(千葉県)の1年ものから20年ものをセットにした「五曲」(5本=5,892円)、昨年から販売する小町酒造(岐阜県)の「STAY HOME おうちでいにしえ酒店堪能セット」(3本=3,084円)など。試飲は1杯(40ミリ)=150円~で、少量であれば無料で提供する。支払いはクレジットカードやアプリなどのキャッシュレス決済のみ。

 木戸泉酒造の「玉響(たまゆら)」(1,650円~)は1974年から現在までに製造された古酒をそろえ、結婚記念日や退職する社員への送別などでギフト用に購入する人が多いという。「50年ほど寝かせた酒や数十万円の酒も置いているが、古酒の価値は年数や価格に比例しない。自分の好みを見つけてほしい」と薬師さん。

 2階は工事中で、日本酒熟成の体験・参加サービス「いにしえラボ」を開く予定だという。一案として、会員を募って酒蔵と一緒に寝かせる酒の銘柄を決め、定期的に試飲して感想を酒蔵にフィードバック。数年後に熟成した酒が会員の手元に届くサービスを構想する。そのほか、酒器や温度管理の違いを楽しむ飲み比べや料理とのペアリングを楽しむ会、移転前に開催していた酒造での蔵人体験やセミナーなども企画する。

 「日本酒はどれも一定以上の品質でおいしいため、差別化が難しく、薄利多売になりがち。お洒落なラベルやネット上の『バズ』を狙う方法もあるが、それは本質ではないと考えている」と薬師さん。「名前だけで売れる酒は置いていない。古酒には明確な価値基準がなく、あるのはロマン。飲み比べ体験を通して、お客さん自身が価値を感じてほしい。知らない世界を体験するには面白い場所になるはず」と来店を呼び掛ける。

 営業時間は土曜・日曜・祝日11時~18時。今後は平日の営業も予定する。

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